「ロシアはシリアを失った 。打撃は打撃であり、痛みは痛みである」

13.12.2024

プーチンの知性を代弁すると評される思想家アレクサンドル・ドゥーギンは、ロシアを弱体化させようとする広範な地政学的戦略において、シリアが最も突破されやすい戦略的要衝であり、アサド政権の崩壊はバイデンがトランプに仕掛けた巧妙な政治的罠であったと分析しています。

シリアの現状は極めて悲劇的な様相を呈しています。当初からワシントンのグローバリストたちによる、ホワイトハウスの予備的戦略として位置づけられており、彼らはグルジア、モルドバ、アルメニア、ルーマニア、シリア、中東など、ロシアが戦略的利害を持つ各地域で緊張を煽ることで情勢をコントロールし、これら戦略的拠点におけるロシアの影響力を段階的に弱体化させながら、紛争の激化プロセスを長期化させることを企図していました。

しかしながら、トランプの勝利とワシントンの新政権樹立の見通しから、ロシア弱体化計画は全面的に加速され、トランプを失敗に追い込む為の罠にかけるためにワシントンの勢力は現在、ロシアの地域的重要性を低下させる為に、彼らの取り組みを急ピッチで推進しています。もしロシアが自国および同盟国の地域的利益を確保するには脆弱で不安定すぎると映れば、それはトランプにロシアを二義的な地域大国として扱うという誤った方向へ導く危険性があり、これこそがシリア情勢の背後にある戦略的意図だと考えられます。

シリアは地政学的な連鎖において最も脆弱な結節点でした。今回、グローバリストとイスラエルは、アサドに対する同時攻撃を仕掛けるため、シリアにおける全ての影響力と手段を投入しています。腐敗したシリア軍が西側と秘密裏に合意を結んでいた可能性があり、アサド一族の一部も同様かもしれません。その目的は、ロシアのシリアからの撤退、アサド政権の打倒、イラン勢力の排除、弱体化したシリアを通じたイスラエルの支援にあり、さらにトランプの目に映るロシアのイメージを変容させることも意図されていました。

現在、バイデン暫定政権下のグローバリストたちは、米露関係の正常化を阻止するため、ロシアに可能な限りの打撃を与えようとしています。アルカイダ、ISIS、クルド人勢力、そしてシリア軍とアサド政権内の裏切り者たちによる敵対行動を煽動することで、彼らはアサド政権の打倒に成功したと言えるでしょう。グローバリストたちが「アラブの春」を仕掛けてから10年以上が経過していますが、彼らはチュニジアやエジプトで伝統的指導者の打倒に成功し、リビアやイラクでは現在も続く内戦を引き起こしました。シリア、ロシア、中国は常に彼らの標的リストに含まれており、ロシアは軍事的に、中国はより経済的な形でシリアに介入し、アサドの世俗政権を支援して大量虐殺を防ぎ、シリアの民族的・宗教的少数派の消滅を阻止することに、10年以上にわたって成功を収めています。​​​​​​​​​​​​​​​​

そして今、グローバリストによる敵対勢力の連携が功を奏する結果となりましたが、これは極めて大きな損失であるものの、我々にとってウクライナのような死活的な重要性を持つものではありません。我々はウクライナでは最後の一兵まで戦う覚悟ですが、シリアはそこまでの優先順位ではないものの、多極的世界秩序と中東における我々の戦略的地位にとって極めて重要であり、現地の民間人への人道支援にも大きな影響を及ぼしています。

今後の展開を予測することは困難を極めますが、敵対する諸派閥間での戦闘が確実に始まることが予想され、シリアの市民社会やキリスト教徒、シーア派などの少数派は深刻な脅威にさらされています。シリアでは今まさに恐ろしい事態が進行しており、我々にはもはやシリアの人々を援助する力は残されていません。我々にできることはすべて尽くしましたが、この打撃と痛み、そして喪失をありのままに受け止めなければならず、これは存在そのものが持つ悲劇的な側面といえます。しかし、我々は皆この悲劇から教訓を得るべきであり、反人道的な議題と世界支配への野望を持つグローバリストたちの必然的な敗北は、このような出来事によってむしろ加速されるものと考えられます。

ロシア、中国、インド、そして多極的世界における他の極は、世界に正義と真の民主主義をもたらし、すべての少数派が過激なテロリストの思想と実践から生き残れるよう、一層の努力を注ぐべきです。

中東情勢については短期的な打開策は見いだせず、状況は臨界点に達するまで悪化の一途を辿ることでしょう。シリア社会を救おうとした我々の試みは失敗に終わり、この結果は他の戦線におけるグローバリストとの戦いにも影響を及ぼすことを認識しなければなりません。しかし、トランプが就任までの間ワシントンと距離を置くことができれば、グローバリストの議題にある程度の歯止めをかけることも可能かもしれません。一方で、トランプのイスラエルへの全面的な傾倒や、ネタニヤフ、ベン・グヴィール、ベザレル・スモトリッチといったイスラエルの急進派への接近は、状況をより複雑化させる可能性も否めず、現状では確実なことは何も言えません。

世界は今、中東に限らず血で血を洗う混沌の渦中にありますが、我々は西洋とは異なる形で国家、民族、宗教間の新たな関係性を構築する道を切り開く必要があります。西洋には人類を導く力はなく、紛争を引き起こし、戦争を始め、破壊することはできても、建設と創造の能力を持ち合わせておらず、その破壊力だけが計り知れないものとなっています。​​​​​​​​​​​​​​​​

翻訳:林田一博

出典